みつかる ~おばあちゃんの歯~
うちには95歳の祖母がいます。
彼女について語り出すと、最近のわたしは愚痴っぽくなります。
認知症、か。
言葉にしてしまえば、軽くなる気持ちもいっぱいあると思うけれど、
ことこのコトに関しては、ダメですねえ~。
すればするほど、重たくなる。
本当は、毎日の出来事だけど、だから「たまに」だけ、呟いてみようと思います。
先週末から、どこかへ紛失してしまっていた祖母の入れ歯。
よくあるコトです。
財布だったり、カバンだったり、薬だったり、
とにかく、どこかにしまい込むと、もう出てこない。
記憶から、スパッと抜ける・・・・というよりは、そのときの祖母の記憶が、
どの時点の祖母のものなのかという、ただそれだけのコトです。多分。
「まだらボケ」というのですよね。
出来る日もある。出来ない日もある。
それだけのコトなんです。
食事の度に、
「あれ? 歯がないなあ~」
と、探す。
こっちはもう分かっているので、最初から歯がなくても食べられるメニューにしてあります。
(もちろん、最初は総出で探したワケなんですが・・・・)
そしてかれこれ4日目。
そろそろ諦めて、歯医者に行くべきか? なんて考えていたら。
ついさっきの食卓で、
「おばあちゃん、歯がないからお雑炊にしたからね」
と、わたしが言うと、祖母は首をかしげて、
「は?」(シャレじゃないよん^^;)
見れば、祖母の口の中には、ちゃんと歯が!
「・・・・・・どこにあったの?」
祖母は、もう既になくしていたコトを覚えていないワケですから、キョトンです。
「ま、いいわ、出てきたんなら良かったよ。さ、食べて」
慣れっこさ! 慣れっこだとも!
わたしは、気を取り直してみるワケです。
子どもたちには、平日の昼間はなるべく祖母のいる居間で過ごすように言ってあります。
でないと、祖母はいつも独りぼっちになってしまうから。
子どもたちも、それはよく分かってます。
でも、弊害もある。
しまいわすれた宿題のプリントがない!
(押し入れの奥から出てきました。わたしの目に触れなかったダイレクトメールの束と一緒に)
同じく、片づけ忘れたラケットがない!
(これは祖母のたんすの隙間に入ってました)
泣きながら探す息子を見て、
「なにがなくなったんだ?」
祖母も捜索隊に加わろうとします。
「プリントっ」
「プリン・・・なに?」
「紙っ! どーせおばあちゃんがなくしたんだろっ」
「わしは、そんなもの触らんよ・・・・」
そんなやりとりをイライラしながら聞いてるわたしは、
「すぐにしまっておかないアンタがワルイんでしょっ!!」
と、息子を怒鳴りつけるのです。
記憶の混乱の中に暮らす祖母。
それでも、祖母はちゃんと生きています。
彼女の人生は、まだ現在進行形で、彼女の心だって痛んだり傷ついたりするのです。
分かっているけど、わたしの心にはいつだって鬼が棲んでいて、
事或るゴトに、ココロノナカデ祖母を罵倒してしまうのです。
それを、祖母はきっと感じている。
大きな声で優しく喋るのは、難しい・・・・。
最近、祖母はわたしに聞き返す回数が増えていく日々の中で、
途中で諦めてしまうようになりました。
分かっていないのに、分かったフリをしてしまうようになりました。
もしも祖母が他界しても、わたしは絶対に、
「あのとき、ああしてあげれば良かった」なんて思わない予定です。
そんなこと思うくらいなら、今しろよ!!でしょう。
今できなくて苦しんでいるわたしを、あとから美化するなんて、わたしが許さない。
「あのとき、ああしてあげられなかった」
その事実を、ちゃんと受け止めて生きていくために、
わたしは、自分の中の鬼と対峙します、これからも。
・・・・明日は、普通のおかずを作ってあげるね、おばあちゃん。